Research Paper 変わりゆく古都の道・まち・人たち - 京都市の交通政策の地域別分析

岡田, 知弘  ,  京都大学経済学部岡田ゼミナール

pp.1 - 147 , 2016-02 , 京都大学経済学部岡田ゼミナール
Description
序 観光都市・京都の最大の都市問題のひとつは,交通問題である。とりわけ観光シーズンである春と秋の道路の交通渋滞は,甚だしいものがある。それは観光客だけでなく,住民にとっても大きな負担をともなっている。観光客が集中する清水寺近くの東山区は,政令市のなかでも最も高齢化が進んだ地域であり,自動車の渋滞とともに狭い歩道に溢れる観光客と自転車は,高齢の住民にとっては生命の危機にもつながる。というのも,いざというとき,救急車や消防車が満足に走れないという状況が続くからである。道は,人々の生を支え,まちをつくる存在でもある。京都市は,上記の道路交通問題に対して,2001年度に嵐山地区から観光ピーク時の交通実験を開始し,その後2004年度から東山地区においても実施,以後両地区では交通対策として観光ピーク時対応を毎年実施している。そしてパークアンドライドや道路の一方通行化,種々の規制・誘導策を束ねた交通需要管理政策を蓄積してきた。2006年度には「歩いて楽しいまちなか戦略」の策定と四条通を中心とした交通対策の検討が開始され,社会実験を経たうえで,地元の関係者の問での長期にわたる議論のすえ計画が具体化し,2015年度に四条通の歩道拡幅工事は完了した。ただし,その都市計画決定をめぐって周辺地区の住民やタクシー業界等からの批判や不満の声が出されるようになり,工事開始直後の2015年春の観光シーズンに四条通の渋滞問題が大きく報道される事態となった。京都市では東山区を中心にした東大路通の歩道拡幅も進めていたが,四条通との連結部分もあることから同事業については慎重に対応することを表明するに至っている。以上のように,一言で交通需要管理政策といっても,そう簡単に多数人たちがつくり出す複雑な交通流動を「管理」できるわけではない。道路を使う主体も目的も,交通手段も多様である。企業,住民,観光客が自動車,自転車,徒歩で利用するだけでなく,公共交通機関であるバス,タクシー,鉄道,さらに緊急車両も使う。また,道路の建設や管理については国,京都府,京都市が担当するが,道路交通の安全については京都府警が責任をもつ。だからこそ,道路利用のソフト面だけでなく,ハード面でも,何らかの施策の合意づくりには時間がかかり,当初の計画どおりに進まない場合も現実にはおこる。2014年度の2・3回生ゼミナールでは,この複雑な問題に果敢に挑戦し,観光都市・京都における交通問題と交通対策の全容を把握したうえで,交通対策の形成過程と帰結を仔細に検証する活動を行った。調査をすすめるにあたって,京都市と同様,古都として観光客が集中する鎌倉市を比較対照地域として選定し,2014年9月に鎌倉市役所,商工会議所及び市内観光スポットで現地調査を実施し,京都での本調査の進め方を決めた。調査は,①行政班,②四条通班,③東山班,④嵐山班に分かれて実施した。これは本書の構成にも反映されている。行政班が担当した1章では,京都市の全体的な交通問題と交通施策の展開過程と内容を検討している。II章では「歩いて楽しいまちなか」戦略の主要事業である四条通の歩道拡幅事業について,その背景と事業の形成過程を関係者にヒアリングしながら追跡している。ただし,工事が開始される前までの検証であることを断っておきたい。つづく皿章では,東大路通の交通対策と歩道拡幅構想について,住民合意の難しさに焦点をあてて,各方面へのヒアリングを基に考察している。最後のIV章では嵐山での交通対策の展開過程と実施状況を,現地でのヒアリングとともに観光客へのアンケート調査も織り交ぜて検討している。このように,京都市の交通対策は,京都盆地全体をターゲットにしたものから,各観光スポットや道路を中心にした特定地域の交通対策まで,重層的な構成となっており,それだけに交通需要管理政策が難しくなってきているといえる。これは,本書で紹介されているように内外の大都市で共通する問題でもある。本調査を通して,部分均衡だけでは対応が困難であり,一方で交通ピーク時を意識した時間軸の対策も意識しながら,他方でハード面での道路改良とソフト面での交通対策とを空間的に組み合わせていく必要があることが,改めて浮かび上がったのではないかと考える。そこでは,京都市と区,そして住民の間での合意づくりの創意工夫と多くの住民の主体的参加が求められてもいる。本報告書が,交通問題と日々格闘されている住民や行政のみなさんの参考になれば,幸甚である。ただし,本報告書は,それぞれの章ごと,あるいは章の内部でも,記述の粗密が存在しており,内容上あるいは表現上,不十分なところが残されていると思われる。あるいは誤解に基づく表現も少なからずあるのではないかと考える。これらは,私の指導の足りなさによるものであるが,編集後記にもあるように学生たちが自覚している問題でもある。私としては今後の学生ゼミナールの指導に生かしていきたいと考えているし,学生たちは彼らなりに自らの次の課題としてとらえ,この経験を生かして,次のステップに取り組んでいくことだろうと思う。ぜひ,大小に関わらず忌憧のないご指摘,ご批判をいただきたい。最後になったが,京都市役所の大路健志さん,森藤淳さん,小西満さんには,何度も学生のヒアリングに応じていただいた。本書末尾のヒアリング先一覧にある京都市内の団体,企業,個人の皆さんにも大変お世話になった。また,比較調査として2014年9月に実施した鎌倉市内での調査合宿でも,鎌倉市役所の内山正徳さんはじめ担当部署の皆さん及び商工会議所や関係諸機関の皆さんにご協力をいただいた。大学院生の望月理生君には,例年のことながら報告書の細部にわたってチェックし学生たちにアドバイスをしてもらった。さらに,経済学部からは学生学習研究支援経費による助成をいただけることになった。これらのサポートなしには,本書は刊行できなかったと思う。この場を借りて,お世話になった皆さんに,改めて御礼を申しあげる次第である。
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