紀要論文 正しい記憶の哲学的諸条件

アベル, オリヴィエ  ,  杉村, 靖彦

12pp.4 - 23 , 2015-12-08 , 京都大学文学研究科宗教学専修
ISSN:1880-1900
内容記述
杉村靖彦(訳)
2014年度には、本宗教学研究室の主催により、ポール・リクールのきわめて近しい弟子にあたるお二人の先生をお招きし、講演会を行った。一方はオリヴィエ・アベル氏(Olivier Abel、フランス・プロテスタント神学部教授)の講演会で、2014年5月24日に開催された。もう一方はジェフリー・バラーシュ氏(Jeffrey Andrew Barash、フランス・アミアン大学教授)の講演会で、同年11月26日に開催された。アベル氏はリクールの側近中の側近であり、リクールの遺稿や蔵書を収めたパリのFonds Paul Ricoeurの開設と運営をリードしてきた人物である。バラーシュ氏はアメリカ合衆国の出身で、リクールが1970年代にシカゴ大学で教えていた時期の弟子であり、近年ますます活況を呈してきている国際的なリクール研究のネットワークにおいて、アベル氏と同様に中心的な役割を果たしてきた。二人はリクール研究において必読文献というべき著作や論文を多数発表してきただけでなく、とくに晩年のリクールと問題関心を共有しつつも、リクールへの批判も含みつつ独自な仕方でそれを展開してきた。各々の強調点は、アベル氏の場合は赦しの問題、バラーシュ氏の場合は集合的記憶や歴史哲学の問題において際立つ。どちらの場合も、決定的な参照軸となるのは、リクールが2000年に刊行した晩年の大作『記憶・歴史・忘却』である。今回の講演会でも、二人がそれぞれの仕方でこの著作の徹底的な読み直しにとりくみ、リクールとの緊張をはらんだ対話の中で自身の新たな思索を展開しようとしているのがたいへん印象的であった。アベル氏が記憶の多元性をリクール以上に強調し、自らが長年取り組んできた政治哲学的な思索へと接続させようとするのに対して、バラーシュ氏は記憶の集合性という観点から、リクールが提供する材料を自身の歴史哲学的な思索へと再構成していく。二人のこのような仕事は、『記憶・歴史・忘却』の刊行後15年、リクールの死後10年を経た今、リクールが遺したものを私たちが創造的に継承していく道を探る上で、かけがえのない道標となるだろう。以上のことをふまえて、当初は、二人の講演原稿を当紀要に掲載し、広くリクールの思想と記憶や歴史の問題に関心をもつ方々に役立てていただこうと考えていた。しかし、バラーシュ氏の講演原稿は、まもなく刊行予定の新著Collective Memory and Historical Past(『集合的記憶と歴史的過去』)の一部であるため、ここに掲載することが難しい性質のものである。そこで、今回はアベル氏の講演原稿のみ掲載することにした。バラーシュ氏- 5 -宗教学研究室紀要 vol. 12, 2015の新著が刊行された際には、アベル氏の論考と引き比べて読まれることを読者の方々に強くお勧めする次第である。なお、アベル氏自身のより詳細な哲学的経歴、および今回の論考に託した狙いなどについては、原稿の「個人的な前書き」で丁寧に述べられているので、そちらを参照していただきたい。
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http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/202532/1/2015journal_004.pdf

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