Thesis or Dissertation ロボティクスデザインにおける感情創造の研究 : 認知症高齢者に対する顔自動情動生成映像によるロボット療法の効果

中川, 志信

2016 , 三重大学
Description
本学位論文では、人と共に生活するロボットに必要と考えられる感情コミュニケーションの新しいデザイン理論(イノベーション学)について論じている。そのコミュニケーションは会話などの言語(バーバル)コミュニケーションでなく、身体動作による非言語(ノンバーバル)コミュニケーションによる感情表現に焦点を絞った研究成果をまとめている。具体的には、文楽人形遣いとの共同研究を通して発見した文楽人形の骨格を伸縮させる感情表現時の誇張動作を、ロボットの全身協調動作で再現できるロボット実機を製作し、その評価実験から有効性を明らかにした。さらに、そのデザイン理論を介護分野へ展開し実用化するため、誇張した感情表現動作を有する認知症ケアロボットを製作し、認知症高齢者への使用実験を通して新療法としての可能性を明らかにした。本学位論文は全5章で構成している。第1章ではロボティクスデザインの背景と、ロボットにおける感情コミュニケーションの研究で文楽に至った経緯を述べている。文楽人形遣いとの共同研究を通して、骨格伸縮ロボットの全身協調運動による感情表現の新しい発見と可能性が確認できた。では、なぜ、ロボットの身体動作による感情表現が必要かという論拠は、以下の3点に集約される。先ず、ロボットは工業製品であるため人は無意識に高精度で完璧な機能を要求する。しかしながら、現行デバイスの性能面の課題から当面のロボットには、映画に出てくるロボットのような期待通りの機能は達成しにくい。そのため、ペットが粗相したときに人が許してしまうペットの情動表現をロボットに採用することで、人とロボットの良好な関係性が築けると考えた。次に、人とそっくりなリアル感を演出し、空圧で人らしい顔の表情まで感情表現できる人型ロボットも多く開発されている。しかしながら、ロボット一体製作するのに数千万円のコストを要し空圧制御部のサイズは大きいため、汎用型ロボットとしての実用化には適さないと考える。身体動作で感情表現するロボットは、ロボットに既に装備されている機構を活用するため感情表現用の開発コストを抑えることができ、早期実用化が比較的容易と考える。最後にロボットの開発自体が、技術志向から社会性志向へ移行してきている。その理由として、人工知能などの知能革命により今後格段にロボットの性能が向上し、人とロボットの間で齟齬のないコミュニケーションが期待されているためである。本論文では、文楽人形遣いとの共同研究から伝統芸能における感情表現の匠の技をロボットに適応させることで、社会性に加え、世界で初めて芸術性にまでロボットを高めることができると考える。人は、文楽人形や映画のロボットように誇張した表現を好む傾向にあり、その中に芸術性が潜在している。第2章では、文楽人形遣いとの共同研究から抽出した骨格伸縮ロボットの全身協調運動による感情表現の有用性を、製作した胴体伸縮ロボットによる被験者への印象度評価実験を通して明らかにしている。文楽人形で多用されている首、腕、胴体の骨格伸縮による感情表現が、ロボットでも有効であるかを確認する目的で実験を進めた。具体的には、胴体が伸縮する背丈130cmの人型ロボットを製作し、それに対する被験者の印象度評価を行った。主観評価に加え脳波測定による客観評価による実験結果から、胴体が伸縮しないロボットよりも、胴体が伸縮するロボットの印象度が格段によかった。また主観評価項目でも、胴体が伸縮するロボットに対して被験者は、人間的な、生き生きした、感情をもつなどの印象を持つことが明らかになった。これらから、文楽や映画と同様に、ロボットにおいても誇張表現による動作を有することで、人を魅了する芸術性の高いロボットが有効であることを明らかにできた。第3章では本研究の実用化に向けた取組みとして、認知症高齢者の介護分野へ展開した予備的な実験と結果を述べている。認知症高齢者の介護分野を選んだ理由は、筆者の祖母が介護施設に入居する認知症高齢者であったこと。次に、老々介護や認知症患者の急増など大きな社会問題になっていること。最後に、介護支援の介護ロボット研究が多い中、認知症介護ロボットの研究は未だ少ないことが挙げられる。以上から先ず、認知症の介護施設で実態調査と介護ロボットの使用実験を通して、認知症の介護分野における本研究の可能性を検証した。その結果、介護施設に入居する認知症高齢者の2つの潜在ニーズを発見した。孤独で寂しく親しい家族や近親者との対話の切望に対してはICTの活用、退屈な日々の時間を癒してくれるペット的な存在が必要なことに対してはペットロボットの活用が有効ではないかと考えた。これらの課題から、本研究の主目的であるロボットの感情創造を、ロボット本体に加え、画面内のバーチャルロボット(顔自動情動生成映像)でも行える既製品の玩具ロボットを実験機として採用し、介護施設に入居する認知症高齢者へ使用実験を施行した。その結果、家族の顔をバーチャルロボット化させ感情豊かに表現するビデオ通話実験では、3名の中度認知症高齢者は大いに喜び楽しみ興奮して涙するなど、想像以上に効果的であった。そのうち1名の認知症高齢者への脳波測定結果からも、脳の活性化が確認できるデータ結果が確認できた。第4章では、本論文の柱となる認知症高齢者に対する顔自動情動生成映像によるロボット療法の具体的な方策や、その有効性を明らかにした実験と結果の成果を述べている。ロボットの感情コミュニケーションが、なぜ認知症高齢者に有効であるかという論拠は以下の3点が挙げられる。先ず、認知症の要因が記憶を司る海馬でなく、感情を司る扁桃核の委縮と考えられはじめ新たな研究成果や新薬がではじめていること。次に、回想法や音楽療法、ペットセラピーなど認知症高齢者の感情面を刺激する療法の効果が期待されていること。最後に、感情面を刺激し感情コミュニケーションを行う介護ロボットが開発されはじめ、療法としての研究成果が注目されていることが挙げられる。以上内容と第3章の成果から、誇張した感情表現動作をロボット本体で行うペット機能と、画面内で感情豊かに表現する家族の顔のバーチャルロボットの2機能をもつロボットを実験機として製作した。この認知症ケアロボットの活用で、認知症高齢者の症状進行抑制を目的とした。ペット機能時のロボットとの触れ合いと、感情豊かに表現する家族の顔のバーチャルロボットとのビデオ通話による実験で、10名の認知症高齢者へ脳波測定を施行した結果、ほとんどの被験者で脳の活性化が確認できた。特に、感情豊かに表現する家族の顔のバーチャルとのビデオ通話では、涙を流して喜んで通話する認知症高齢者も多いことから、その有効性の高さが明らかになった。第5章は、地域イノベーション学からの視点で、本研究の総括と今後の展望をまとめている。大阪という地域発祥の伝統芸能である文楽の匠の技から、世界へ発信できる日本文化を象徴する骨格伸縮構造による感情豊かなロボットを創造することができた。また、三重など地方の介護施設に入居する認知症高齢者やその家族など地方特有の課題から、ICTやロボットなどの先端テクノロジーで解決できる認知症ケア療法の可能性が確認できた。これらは、まさに地域イノベーション学からの成果であり、本研究科の目指すべき成功モデルを実践できたと考える。
本文 / 三重大学大学院 地域イノベーション学研究科 地域イノベーション学専攻
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