学位論文 歩行中の膝関節負荷と片脚立位移行動作における生体力学的指標との関連性 : 変形性膝関節症患者の評価・治療への応用の観点から

千葉, 健

2017-03-23
内容記述
1.諸言歩行中の大きな外的膝内転モーメント(KAM)が変形性膝関節症(膝OA)の進行に関連することが報告されている。したがって、膝OAに対する保存療法においては歩行時のKAMの増大を防ぐことが目標の一つとなる。KAMに影響を与える要素としては、前額面上の骨盤・体幹の傾斜角度が着目されており評価・治療の対象となるが効果的な治療法の確立には至っていない。片脚立位動作は、骨盤・体幹の前額面上の運動学的挙動の評価や治療戦略として臨床的に簡便な方法であるが、同課題中の骨盤・体幹の運動学的挙動と歩行時の骨盤・体幹の運動学的挙動やKAMとの関連を検討した報告は無い。また、膝OA患者は歩行中に体幹を立脚側へ傾斜させ、反対側骨盤下制を小さくすることでKAMの増大を防いでいると考えられているが、片脚立位課題中の骨盤・体幹キネマティクスに関しては、これまでに検討されていない。膝OA患者における片脚立位動作の特徴を明らかにすることは、日常診療に有益な情報となると思われる。したがって、本研究の目的は、①片脚立位課題中のKAMと歩行時のKAMの相関性を検討すること、②片脚立位課題中の骨盤・体幹の運動学的挙動と歩行時のKAMとの相関性を検討すること、③膝OA患者における片脚立位動作の特徴を明らかにすることとし、以下の4つの研究課題による検討を行った:1)歩行と片脚立位課題における骨盤・体幹の運動学的関連性の検討、2)歩行時KAMと片脚立位動作の生体力学的指標との関連-健常成人を対象にした検討-、3)歩行時KAMと片脚立位動作の生体力学的指標との関連-膝OA患者での検討―、4)膝OA患者と健常高齢者の片脚立位課題における骨盤・体幹の運動学的挙動の比較2.歩行と片脚立位課題における骨盤・体幹の運動学的関連性の検討健常成人28名を対象に、歩行と両脚立位から片脚立位への移行動作(以下、片脚立位課題)を三次元動作解析装置と床反力計を用いて記録した。2課題間における骨盤・体幹の運動学的挙動の関連性をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。その結果、体幹傾斜角度に関しては2課題間の有意な相関を認めなかったが、歩行荷重応答期の骨盤傾斜角度と片脚立位課題における骨盤傾斜最小値に有意な正の相関を認めた。本研究結果は、単純な姿勢制御課題である片脚立位課題での骨盤の運動学的挙動が歩行中の骨盤運動と関連することを明らかにした。3.歩行時KAMと片脚立位動作の生体力学的指標との関連-健常成人を対象にした検討-健常成人28名を対象に、歩行と片脚立位課題を三次元動作解析装置と床反力計を用いて記録した。歩行中のKAM最大値とそれぞれ①片脚立位課題でのKAM最大値、②片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度、③片脚立位課題での膝関節レバーアーム、④自然立位での膝内転角度、④中殿筋活動潜時との相関をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。結果、歩行中のKAM最大値は、片脚立位課題でのKAM最大値と有意な正の相関、片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度最大値と有意な負の相関、片脚立位課題での膝関節レバーアームと有意な正の相関、遊脚側中殿筋活動潜時と有意な負の相関を認めた。本研究結果は、片脚立位課題での生体力学的指標が歩行時のKAMと関連することを示した。また、片脚立位動作中の体幹傾斜と骨盤傾斜の大きさは、歩行中のKAMの大きさを予測する因子の1つとして評価されるべきと考えられた。4.歩行時KAMと片脚立位動作の生体力学的指標との関連-膝OA患者での検討―膝OA患者7名を対象に、歩行と片脚立位課題を三次元動作解析装置と床反力計を用いて記録した。歩行中のKAM最大値とそれぞれ①片脚立位課題でのKAM最大値、②片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度、③片脚立位課題での膝関節レバーアーム、④自然立位での膝内転角度との相関をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。結果、歩行時KAM最大値と片脚立位課題でのKAM最大値および自然立位での膝内転角度に有意な正の相関を認めた。また、統計学的に有意では無かったが歩行時KAM最大値と片脚立位課題での膝関節レバーアームが中程度の正の相関を示した。歩行時KAM最大値と片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度との間に相関は認められなかった。本研究では健常成人と同様、両課題中のKAMが相関し、片脚立位課題が歩行中の生体力学的挙動を反映する動作課題であることを示唆した。一方で、片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度は歩行時KAMと有意な相関を認めなかった。膝OA患者では膝内転角度が歩行時KAMに与える影響が大きく骨盤・体幹の影響が相殺されたためと思われた。5.膝OA患者と健常高齢者の片脚立位課題における骨盤・体幹の運動学的挙動の比較健常高齢者8名および膝OA患者7名を対象に、歩行と片脚立位課題を三次元動作解析装置と床反力計を用いて記録した。歩行速度、歩行中のKAM最大値、骨盤・体幹傾斜角度、片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度、静止立位時の膝内転角度における2群間の比較を対応のないt検定を用いて行った。結果、歩行速度が膝OA群で有意に遅く、歩行中の体幹傾斜最大値および骨盤傾斜最小値が膝OA群で有意に大きかった。また、片脚立位課題では有意では無かったが骨盤傾斜最小値が膝OA群で大きい傾向にあった。本研究におけるOA患者は、歩行速度を遅くすること、体幹傾斜角度を大きくし、反対側骨盤下制を小さくすることでKAMを減じていたと思われる。このような歩行時の骨盤キネマティクスの特徴は片脚立位課題でも観察された。本結果は、歩行課題で生じていた膝OA患者での骨盤キネマティクスの変化が片脚立位課題でも生じている可能性を示唆した。6.結論本研究における一連の検討から以下を明らかにした。1.片脚立位課題での骨盤傾斜最小値は歩行時荷重応答期の骨盤傾斜角度と相関する。2.片脚立位課題中のKAM最大値は歩行時のKAM最大値と相関する。3.片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜および膝関節レバーアームが歩行時KAM最大値と関連する。4.膝OA患者は、KAMを減少させるために歩行中の骨盤・体幹のキネマティクスを変化させており、その変化は片脚立位課題でも生じている可能性がある。以上の知見から、片脚立位課題は変形性膝関節症の発症および進行予防の運動療法における評価・治療に有用である可能性がある。
58p
Hokkaido University(北海道大学). 博士(保健科学)
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