Thesis or Dissertation Phenotypic diversity and ecology in salmonid fishes : focusing on the effects of migration costs and hatchery stocking [an abstract of entire text]

佐橋, 玄記

2016-03-24
Description
サクラマスOnchorhynchus masou、イワナSalvelinus leucomaenis、オショロコマSalvelinus malma、カラフトマスOncorhynchus gorbuschaは北海道に広く分布する在来のサケ科魚類である。サケ科魚類は水産上の重要種であり、小スケールにおいて個体群を形成することから、生態と進化に関する研究が古くから行われてきた。北海道において、サクラマスとイワナでは個体群内の一部の個体が、カラフトマスでは個体群内の全ての個体が、川で生まれた後に海へ降海する降海型の生活史をとる。 もし、降海型が生じる個体群間に、回遊中のエネルギー消費や死亡などの回遊コストのばらつきが生じるならば、表現型レベルの多様性が生じている可能性がある。また、サケ科魚類では、資源増殖と個体群の保全を目的とした移植放流とふ化放流が世界中で広く行われており、それに伴う人為的な影響が危惧されている。 そこで本研究は、上記4種をモデル生物として、1)回遊コストのばらつきが表現型レベルの多様性に与える影響、2)支流間の冬季生態の違い、3)移植個体群における負の影響、4)ふ化放流に伴う人為選択が表現型レベルの多様性に与える影響、5)正と負の効果の両方を考慮した上での放流効果、について検討することを目的とした。 第2章では、課題1)と2)について検討を行った。 第2章1節では、釧路川水系で同所的に棲むサクラマスとイワナのオスを対象に、成熟サイズの支流間変異とその要因を調べた。両種のオスは、川で一生を過ごす「残留型」と海へ回遊する「降海型」に生活史が分岐し、成熟サイズはその生活史分岐の基準となる。 解析の結果、成熟サイズは種間で同調した変異性を示し、両種ともに成熟開始サイズは海からの距離と負の相関を示した。つまり、サクラマスとイワナともに、海から離れた場所に位置する支流ほど成熟サイズが小さい、という共通の傾向が認められた。これは、回遊のコストの増加に伴い、成熟サイズを小さくし、残留型を選択するように適応した結果であると考えられた。 第2章2節では、成熟状態に対するサンプリングのランダム性が成熟サイズの推定に与える影響を検討した。サンプリングのランダム性の指標として用いた初成熟年齢における性比は、海からの距離と正の相関を示した。また、初成熟年齢における性比は、成熟サイズと負の相関を示した。この各支流の性比のばらつきは、成熟状態依存の移動傾向の違いによって生じていると考えられた。 これらの結果から、成熟サイズの推定を行う際に、成熟状態に対するサンプリングのランダム性を考慮することの重要性が示唆された。 第2章3節では、秋と冬にサクラマスとイワナの生息密度を調べ、生息密度の季節変化の傾向を種間と支流間で比較検討した。秋から冬にかけてイワナの生息密度は全ての支流で減少したが、サクラマスの生息密度は水温が相対的に高い支流において増加していた。また、秋から冬にかけて全ての支流でイワナ率が減少し、サクラマス率が増加した。これらの結果から、越冬のための河川内移動の傾向が種間で異なること、水温依存の生息地選択がサクラマスの生息密度の季節変化に作用していることが示唆された。 第2章4節では、カラフトマスの成熟時の形態を北海道と青森の河川間で比較した。形態の発達程度の指標値は、雌雄ともに海からの距離と上に凸の関係を示した。つまり、成熟時の形態は、繁殖場が海から近い河川と海から遠い河川ではあまり発達せず、繁殖場が中間の距離にある河川で発達する傾向がみられた。 また、各河川のヒグマの目撃頻度は、海からの距離と負の相関関係を示した。これらの結果は、繁殖場が海から近い河川ではヒグマの選択的捕食リスクの増加、繁殖場が海から遠い河川では回遊コストの増加に伴って形態の発達を抑制するように適応した結果であると考えられた。 第3章では、課題3)、4)、5)について検討を行った。 第3章1節では、オショロコマの移植元個体群と移植先個体群間で移植から約60年後のヒレ奇形の頻度を比較した。その結果、ヒレ奇形の頻度は移植元の個体群に比べ、移植先の個体群で有意に高くなっていた。この結果は、限られた数の個体が移植事業に用いられたことで、近親交配によって移植先の個体群に高頻度のヒレ奇形が生じたためであると考えられた。 第3章2節では、斜里川水系で同所的に棲むオショロコマとサクラマスのオスを対象に、成熟サイズの変異を調べ、滝とふ化放流の影響を検討した。 斜里川水系では、オショロコマは全ての個体が残留型になるのに対し、サクラマスの雄は一部の個体が降海型になる。 また、中流部に一部のサクラマス降海型のみが遡上可能な滝が存在し、サクラマスでは降海型のみを親魚に用いたふ化放流が行われている。サクラマス放流魚の成熟サイズは、野生魚に比べて大きかった。また、滝上の支流に棲むサクラマス野生魚の成熟サイズは、滝下の支流に棲むサクラマス野生魚に比べ、小さかった。一方、オショロコマの成熟サイズは、滝の上下で変わらなかった。これらの結果から、自然選択(滝)と人為選択(ふ化放流)はサクラマスの成熟サイズに作用し、サクラマスが海に行くか川に残るかの生活史戦略に影響することが示唆された。 第3章3節では、斜里川水系におけるサクラマス幼魚の放流事業を対象に、正と負の効果の両方を考慮した放流効果を調べた。 野生魚と放流魚合計の生息密度とバイオマスには、非放流支流と放流支流間で差が見られなかった。 野生魚の生息密度とバイオマスは、非放流支流に比べて放流支流で有意に低くなった。 これらの結果から、サクラマス幼魚の放流事業が正の効果を生むのではなく、野生魚から放流魚への置換というマイナスの効果を生じさせていることが示唆された。 最後に、第4章で回遊コストの増減に応じた表現型レベルの多様性創出機構、生息地間のつながりの重要性、ふ化放流の改善案について総合考察を行った。回遊コストの増減に応じた表現型レベルの多様性形成機構は、魚類以外の鳥や昆虫などの他の分類群においても見られる。よって、回遊コストの増減に応じた表現型レベルの多様性形成機構は、回遊動物において一般的に見られる機構なのかもしれない。サケ科魚類の水系内の移動は、成熟状態と季節以外の要因に応じても生じる。例えば、洪水時には本流から支流へ移動することが知られている。よって、常に水系内の連続性が保たれていることがサケ科魚類の成長と生残にとって重要であると考えられる。 ふ化放流の管理方式には、野生魚と放流魚を統合して管理する方式と、分離して管理する方式の2通りの方法がある。 日本では、大河川を中心に既に長期にわたり放流事業が行われていること、河川の水位変動が激しく放流魚の完全な捕獲・分離が難しいことから、統合管理の適用が現実的であると考えられる。統合管理を行う場合、自然繁殖を促進するとともに、放流に伴う野生魚の置換と放流魚に対する人為選択の連続的な作用を避けることが重要である。そのためには、自然繁殖が盛んに行われていない場所に放流を行うこと、回帰した放流魚を繰返し親魚として用いないことが必要になるだろう。 以上のことから、表現型レベルの多様性を保全しながら持続的な漁業を行う上で、回遊コストのばらつきに応じた表現型レベルの多様性形成機構とふ化放流に伴う影響を考慮することの重要性を実証的に示すことができた。
Hokkaido University(北海道大学). 博士(環境科学)
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