学位論文 Molecular ecology of cold adaptations in the family Cottidae focused on type I antifreeze proteins [an abstract of entire text]

山﨑, 彩

2016-03-24
内容記述
海水が凍結する海域に生息する多くの海洋生物は,不凍タンパク質(AFPs),あるいは不凍糖タンパク(AFGPs)を生産することにより体の凍結を防いでいる。 これまでの研究から,これらのタンパク質は4種類存在することが明らかにされた(AFPs:I–III型の3種類,AFGPs:1種類)。 約300種で構成されるカジカ科は,主に北太平洋に生息し,そのうち9属31種が北極海に進出している。 本研究では,I型AFPをもつカジカ科の凍結海域への進出と適応を明らかにするために,1)カジカ科各種の北極海への進出時期を明らかにし,2)ギスカジカ属の不凍活性とAFP遺伝子構造を調べ,3)温帯性種を含むカジカ科数種の不凍活性を調べた。 これらの結果をもとに,4)カジカ科魚類の寒冷地適応について考察した。 1)カジカ科における北極海への進出時期の推定カジカ上科(5科27属95種)を対象とした分子系統解析および分岐年代推定により,カジカ科における北極海への進出は少なくとも3回生じたと推定された(COI, 652bp)。最初の進出はベーリング海峡開通以前の790万年前,2回目の進出はベーリング海峡の最初の開通時とされる550–300万年前,そして3回目の進出は250万年前以降の退氷期であると推定された。 また,北極海へ進出した種は,浮遊期を持つ深海種を含まず,全て浅海に生息する種であったことから,北極海への進出は成魚による移動であったと考えられる。 2)ギスカジカ属Myoxocephalusにおける不凍活性とAFP遺伝子の分子構造不凍活性とAFP遺伝子の関係を明らかにするために,まず寒帯から亜寒帯にかけて種間で異なる分布域を持つギスカジカ属6種の不凍活性を比較した。 不凍活性の測定には,亜寒帯性種3種の筋肉から調整したすり身の上清を温度制御観察ステージに載せ,顕微鏡で氷結晶の成長を観察した。 寒帯性種3種は先行研究の結果を引用した。 次に,亜寒帯性種3種の肝臓と皮膚からmRNAを抽出し,AFP遺伝子の塩基配列を決定した。寒帯性種1種についてはGenBankから配列を引用した。 不凍活性を比較したところ,寒帯の浅海性種で最も高く,寒帯の深海性種で最も低く,亜寒帯の浅海性種2種はその中間の値をとり,不凍活性が生息地の水深および底水温と相関することが示された。 また,各種のアイソフォーム数は,寒帯性種で最も少なく,亜寒帯性種で多い傾向があった。 このことは,不凍活性の高い種では機能するアイソフォームは少数であってもAFPの合成能が高く,不凍活性が低い種ではAFPの合成能が低いことを示している。 寒帯性種を対象とした先行研究より,不凍活性の強弱はAFP mRNA転写量と正の相関にあることから,不凍活性が低い種では,mRNA転写量が少ない可能性が考えられる。 亜寒帯種の2種のアイソフォームでは,氷結晶への結合部位に変異が多く生じ,特に,特異的なアイソフォームでは,頑健な立体構造を維持するためのイオン結合部位を全て欠いていた。 氷結晶との結合部位の変異およびイオン結合の欠如は,氷結晶の成長により立体構造が崩壊し易くなり,不凍活性が低下すると考えられる。 これらの部位に多くの変異が見られることは,亜寒帯種の生息環境が強い不凍活性を必要としないためと考えられる。 3)カジカ科における不凍活性カジカ科39種について,筋肉の不凍活性を調べたところ,北極海では夏季に採集した種でも高い不凍活性を維持しており,アラスカ,モントレーおよび北海道では低活性あるいは無活性の種が存在することが明らかになった。 一方で,冬季の最低水温が9°Cである佐渡において,低いレベルであるが活性を維持している種が確認された。 凍結の恐れがない佐渡において,現在も活性を持つ種が複数存在することは,比較的近い過去には,AFPが機能していた可能性が考えられる。 約258–1万年前の更新世には日本海は閉鎖的な日本海湖であり,水温が-1.8–-1.4°Cまで下がったと考えられている。従って,この時期を経験した種が現在も遺存形質として不凍活性を保持していると考えられる。 4)カジカ科における寒冷地適応カジカ科におけるAFPは,同じカジカ亜目に属し,同じI型AFPをもつクサウオ科との分岐後,約3,000–600万年前に両科で並行して獲得したと考えられた。 また,カジカ科におけるAFP遺伝子配列は属ごとに異なっており,それぞれ独自に不凍機能を持った遺伝子を進化させてきたと考えられる。 しかし,深海性種,潮間帯性種および温帯性種はAFPを発現せず,それぞれの生息環境に適応し,二次的にAFPを失ったと考えられる。その一方で,北極海に生息し不凍活性を持たない種(Artediellus scaber)も存在していた。 このような例は南極のノトセニア科魚類でも確認されており,この種も同様に鰓構造,あるいは皮膚に体表粘液を発達させ,耐凍性を維持しているのかもしれない。以 上 よ り ,カジカ科は凍結海域に適応する様々な方法を進化させ,多くの種が北極海に進出できたのだろう。
Hokkaido University(北海道大学). 博士(環境科学)
本文を読む

http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/62125/1/Aya_Yamazaki_summary.pdf

このアイテムのアクセス数:  回

その他の情報