学位論文 Helicobacter pyloriの病原因子CagAによるIL-1β産生機構に関する研究

亀岡, 章一郎

2016-03-24
内容記述
Helicobacter pylori( ピロリ菌) 感染は世界人口の約半数に感染するため、世界的に重要な健康問題として位置づけられている。ピロリ菌は胃酸を中和することで胃に定着し、その慢性感染によって胃癌をはじめとする様々な病態を引き起こすことが知られている。ピロリ菌の中でも病原因子CagA 陽性株は重度の炎症や発癌性を示し、病原因子CagA は胃癌発症を決定づける重要な細菌側の因子として注目されてきた。また、CagA 陽性株の感染患者では胃においてIL-1βなどの炎症性サイトカイン量が有意に増加する。ピロリ菌感染により増加したIL-1βは胃酸の分泌を強く抑制し、ピロリ菌の増殖促進に繋がることが報告されていることや、胃癌発症を促進することが疫学的および遺伝子改変マウスを用いて実験的に示されている。臨床的に、CagA 陽性株の感染患者ではIL-1βが増加することからCagA がIL-1β産生機構に関与している可能性が考えられるとともに、このCagA によるIL-1βの産生機構はピロリ菌感染における炎症から発癌にむかうという病態の悪化に寄与することが考えられるが、その詳細な分子機構はこれまで不明であった。IL-1β産生はproIL-1βの転写翻訳に加えて、NLRs やALRs を受容体として、それらとともにアダプターASC およびprocaspase-1 の複合体であるinflammasome の活性化によるproIL-1βの成熟化が必要となる。そこで本研究ではピロリ菌感染、CagA によるIL-1β産生機構を明らかにすることを目的とした。第1章ではヒトマクロファージに、野生型ピロリ菌株、cagA 欠損株、そしてCagA を分泌することが出来ないcagE 欠損株を用いた感染実験を行った結果、ヒトマクロファージでのIL-1β産生はCagA に依存していることが示された。またIL-1β産生に関わるIL1B の転写およびcaspase-1 の活性化の両経路にCagA が関与していることを示した。第2 章ではCagA はNLRP3 inflammasome を活性化していることを明らかにした。ピロリ菌感染時のIL-1β産生に寄与するNLR を調べるために、代表的なNLR であるNLRP3とNLRC4 をノックダウンし、感染実験を行った結果、NLRP3 の発現を低下させたときのみ、IL-1β産生量が有意に低下した。さらに野生型株とCagA 欠損株を用いた感染実験やCagA 過剰発現系により、CagA はNLRP3 とASC の会合を増強すること、またNLRP3 の8多量体化を促進すること、そしてNLRP3 inflammasomeを活性化することを明らかにした。第3 章ではピロリ菌感染時のIL-1β産生には細胞外ATP および細胞外へのK +の流出、加えてCagA によるROS やPLCγ1 を介した細胞内シグナルによりNLRP3 inflammasomeを活性化していることを示した。第4章では免疫沈降法によりCagA がNLRP3 inflammasome複合体と会合性を示すこと、CagA とNLRP3 は会合するがNLRC4 は会合しないことを示した。また共焦点レーザー顕微鏡を用いて、細胞内でCagA とNLRP3が共局在することを示した。そしてCagA がNLRP3のLRR ドメインに会合することが、NLRP3 inflammasome を介するIL-1β産生に重要であることを示唆する結果が得られた。第5 章ではCagA は組み換えタンパク質を用いて、CagA とNLRP3 は直接的に結合し、NLRP3 のATPase 活性を増強させることを示した。加えて、CagA のC 末端領域にあるCMmotifs がNLRP3 inflammasome の活性化に重要であることを示した。以上、本研究はCagA はNLRP3 に直接的に認識されていることを見出した。そしてCagAと結合したNLRP3 は多量体形成し、ASC とprocaspase-1 を含むNLRP3 inflammasome 複合体形成が生じることでIL-1βが産生されることを示唆された。これらの結果は炎症と胃癌発症に関連する、ピロリ菌のCagA による宿主の細胞内シグナルの異常調節メカニズムを示すものである。これにより、ピロリ菌感染特異的なIL-1β産生を抑制することで、胃癌発症の新たな予防法の開発につなげていきたい。
91p
Hokkaido University(北海道大学). 博士(理学)
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