学位論文 カテプシンK阻害剤の骨代謝に対する影響に関する研究

越智, 保夫

2015-03-25
内容記述
高齢化が進む現代社会において,運動器疾患を診断・治療することは患者のQuality of life (QOL)の観点から重要な課題である.運動器疾患の一つである骨粗鬆症は高齢(閉経)による骨代謝変動が原因となり,骨量の低下とともに骨折リスクが増大する疾患である.骨粗鬆症を栄養あるいは運動療法により予防することは非常に重要であるが,一旦骨密度が一定値を下回ると骨折リスクが著しく高まることから,積極的な薬物療法が必要となる.骨粗鬆症の薬物療法に関してはalendronateに代表されるビスホスホネート製剤(BP)が普及している.BPは椎体(背骨)及び非椎体(四肢の骨)に対する骨折予防効果が証明されているものの,その非椎体に対する作用が十分でないこと,服薬コンプライアンス(服用後立位を30分以上維持し,食事摂取を制限)や副作用(胃腸障害,非定型骨折等)の問題から,さらなる治療薬の開発が望まれている.骨コラーゲンの分解を担うカテプシンKの阻害剤はBPと同様,破骨細胞を標的とする薬剤であるが,その作用機序には違いがある.本研究では小野薬品工業株式会社にて創製したカテプシンK阻害剤,ONO-5334(以下,ジケトヒドラジン誘導体1)及びONO-KK1-300-01(以下,ジケトヒドラジン誘導体2)を用い,種々骨代謝におけるカテプシンKの役割を検討した. ジケトヒドラジン誘導体1はラット,ウサギ及びヒトカテプシンKを選択的に拮抗様式で阻害した.ジケトヒドラジン誘導体1はヒト破骨細胞による骨コラーゲンの分解(骨吸収)をalendronateと同様に抑制した.しかし,alendronateは破骨細胞の骨格形成に影響したのに対し,本化合物は破骨細胞の骨格形成には影響せず,骨吸収のみを抑制した. ジケトヒドラジン誘導体1の骨吸収に対する作用を甲状腺副甲状腺切除(Thyroparathyroidectomy:TPTX)ラットを用いて検討した結果,本化合物は用量に応じて,骨吸収を抑制した.骨吸収作用は非げっ歯類であるカニクイザルにおいても確認された.また,本化合物は骨形成に対しほとんど影響せず,骨吸収のみを選択的に抑制した. 骨粗鬆症の病態モデルであるラット及びカニクイザル卵巣摘出骨粗鬆症モデルに対するジケトヒドラジン誘導体1の作用を検討した.その結果,本化合物は骨粗鬆症モデルにおいても骨吸収を選択的に抑制し,骨形成には影響しなかった.また,本化合物は卵巣摘出による骨密度(椎体,非椎体)の減少を用量依存的に改善し,骨強度も改善した.本化合物の骨への作用は皮質骨に対し顕著であり,海綿骨に対し強い作用を示すalendronateとは異なっていた.この作用点の違いはカテプシンK阻害剤とビスホスホネートの骨形成に対する作用の違いに起因すると考えられた. 上記のような骨吸収及び骨形成に対する作用から,カテプシンK阻害剤はparathyroid hormone(PTH)のような骨形成促進剤との併用効果が期待できる.ラット卵巣摘出骨粗鬆症モデルを用いて,ジケトヒドラジン誘導体2とPTHの併用効果をalendronateとPTHの併用効果と比較した.その結果,alendronateはPTHによる骨形成の上昇を抑制し,alendronateとPTHの併用は脛骨全骨密度に対し,相加的作用を示さなかった.一方,本 化合物はPTHによる骨形成の上昇を抑制せず,本化合物とPTHは全骨密度に対し,相加的効果を示した.このような併用は低骨密度骨粗鬆症患者の骨密度を短期間で改善させ,骨折リスクを早期に減少させることが期待できる. 以上,カテプシンK阻害剤ジケトヒドラジン誘導体1及び2を用いて,骨代謝に対するカテプシンKの関与を検討した結果,以下の点が明らかになった. ① カテプシンKは破骨細胞において骨吸収機能のみを担うため,既存薬(ビスホスホネート)と異なり,その阻害剤は細胞に傷害を与えない ② その阻害剤は骨吸収を選択的に抑制し,骨形成には(ほとんど)影響しない ③ その阻害剤は動物モデルにおいて骨量を改善する.特に皮質骨に対する作用が顕著であり,それは骨吸収選択的な作用により発揮されると考えられる ④ その阻害剤は皮質骨に対する作用が顕著であることから,海綿骨が豊富な椎体に加え,皮質骨が豊富な四肢の骨(非椎体骨)に対しても優れた効果を発揮する ⑤ その阻害剤は破骨細胞を傷害せず,二次的に骨形成を抑制しないことから,PTHなどの骨形成促進剤との併用効果が期待できる これらの点は,既存薬(BP)とは異なる点(差異化点)であり,骨粗鬆症領域において,カテプシンK阻害剤の有用性を期待する結果である.本研究では阻害剤を用いた研究により,カテプシンKの骨代謝における重要性を明らかにした.
93p
Hokkaido University(北海道大学). 博士(農学)
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